暑さのおさまった静かな夕方、夕飯の買出しにでかける。
今日は地元の仲間が、我が家に大勢集まる日。
大量の買い物を済ませて、青い田んぼの横を歩いていると、みるみるうちに空が真っ暗になる。
雲の中を稲妻が光り、横殴りの激しい雨が襲ってきた。
田舎の一本道、雨宿りする場所などない。
両手に荷物だったので、カバンの中の折りたたみ傘をもたもたと探している間に、ずぶぬれになってしまった。
風も強く、途中で傘を開くことを諦め、大雨の中、身一つで憤然と歩を進めて家へ帰る。
靴の中はグシャグシャ、髪の毛は丸い顔に張り付き、眼鏡は水滴だらけで前がよく見えない。
雷が、光っては轟音をあげ、その音の大きさに身震いする。
どうかしている、ここのところのお天気。
家に着いて玄関に荷物を置き、かかとをキュッキュ言わせながらお風呂場へ向かった。
夜、さきほどの雷雨が嘘のように過ぎ去ったころ、続々とお客さんがやってくる。
チーズを盛り合わせ、枝豆、野菜のフリット、牛肉のねぎ巻きなどのメニューでお酒をいだだきながら、みんなと近況報告。
男も女も、暑い日の夜はビールが良い様で、よく出る。
家の中の声は次第にボリュームが上がって行き、そこかしこで大笑いが起こっている。
私はまた、お豆サラダ、梅干とシソとおじゃこチャーハンなどの適当料理を、こしらえては出して、出しては飲んでする。
夫も、黒霧ロック!ジンベースの何か!ワイン!!などなど、皆のめちゃくちゃな種類のリクエストに答えて、お酒を作っている。
途中、用意した氷やらビールやらが足りなくなって、近所の酒屋さんまでふらふらと買出しへ行くと、おじちゃんがいつも通り、自販機にビールを詰め込む作業をしていた。
「こんばんは」
「はい、木村さん、こんばんは」
おじちゃんは、お店にお客さんが入ってくると、必ず名前を言ってから、挨拶する。
わたしはそれが、結構好きだ。
おじちゃんのお嬢さんと夫は同級生で、お嬢さんは最近嫁がれて、少し遠いところに住んでいる。
「お客さん?杉橋くん?」
「はい、杉橋くんも来てるけど、他にも、今日は大勢のお客さんなんです」
杉橋くんとは、近所に住む、やはり酒屋のお嬢さんと夫の同級生である。
「そーう。それは大変だねぇ。・・・じゃあ、これ、みんなで食べて」
そう言っておじちゃんは、おつまみをいくつかオマケしてくれた。
お礼を述べて、またふらふらと戻りながら、ひとつ缶ビールを開ける。
ご近所の人に見つかったら、木村さんとこの奥さんはアル中だと思われるような飲み方だが、夏の夜に、気持ちが良いからいいや。
家に近付くにつれ、我が家から漏れ出る賑わいが、いかに大きいかを知る。
某月某日
大阪のテレビ局で佐藤愛子さんにあい、そのまま神戸三宮の「いろりや」で飲み、食べる。愛子さんはビール、私は日本酒、愛子さんはこの日着物でいかにも山の手の良家の夫人ふう、楚々と美しく、一緒についてきた私の亭主、やたらと元気よくハッスルしてはしゃいでいるのがわかる。「オタク、小学校の読本はサイタサイタですか、ハナハトですか」「ハナハトです」「わア一緒ですわ。愛子さんて写真より美人ですな」「いいえ、元美人という所ですよ」「元がつこうと前がつこうと、美人は美人ですよ。元オンナ、というのも居るんやから」と亭主、私をかえり見、それは元オンナでも元人間でもかまいませんが、女二人さしつさされつ、しっくり飲みたいのに、だから男って足でまといだというのよ。
< 吉行淳之介編『酒中日記』(中公文庫)より、田辺聖子「女同士の酒」>
この『酒中日記』水上勉、宮尾登美子、山田詠美、丸谷才一、星新一など、そうそうたる作家たちのお酒にまつわる日記が収録されている。
飲み方、感じ方も皆ちがって味わいのある本だ。
夏はいつもどこか浮ついて、悲哀も少しあって、けれども子供のころから一貫して、やっぱり楽しい。
我が家の宴は、そのうち花火が始まって、日をまたいで続くだろう。
大人の夏も、とてもいい。
飲み干した缶をクシュリと握りつぶして、玄関を開け、ガラガラと部屋の扉を開けると、オッカエリー!!と、出来上がった真っ赤な顔がたくさん迎えてくれた。
夏はまだまだこれから。
お楽しみも、まだまだこれから!!