今月の1枚!



第六回 人間はおむつに始まり、おむつに終わる?

先日、ニュースで、あるプロレスラーが交際している女性タレントについて
「おしめをする歳になって『かあちゃん、やってくれや』と言える感覚がある」
と交際相手との結婚を決意した発言をしていた。
あれ、ちょっと待てよ。

さらに少し前になるが、某漫談家の方が
「人間はおしめに始まり、おしめに終わる」と風刺して、会場を笑いの渦にした。
おいおい、風刺だけれども。

ちょっと医療・福祉・介護のことを知ってしまった人間としては
「歳をとるとおしめをする」
という意識を、まだ健全な年齢の日本人がもっていることにすこしとまどう。
たしかに、テレビコマーシャルでも見かけるし、
「介護 おむつ」で検索すると、やまほど大人用おむつの情報が出てくる。
自然なことだと思ってしまうのもしかたがないかもしれない。
高齢者の施設では「おむつ交換」の時間があったり、
おむつの費用は介護保険で補助されるかなどが議題になったり、
おむつなしで介護を語ることはむずかしい現状もある。

しかし、おむつをしない老後があることを私は知っている。
「排泄の自立」という。

排泄の話は「汚いこと」としてあまり公には語られない。
とてもデリケートで、そしてその人のプライドに大きくかかわる問題でもある。
排泄は生きている人間なら誰にも平等にかかわってくるもの。
すべての生物が通る道である。
こんなにも、あたりまえでふつうのことなのに、伏せておかなければならないテーマ。

いきなりだが、私はスキューバダイビングをする。
ダイバーの間ではふつうのことみたいだが、
長時間海に潜っている場合トイレに行きたくなると「そのまましてください」と言われる。
それまで「排尿はトイレで」としつけられて大人になったのに、
そのまま出していいですよといわれてもなかなか出るわけではない。

スキューバに慣れて、ダイバーが排尿してよくて、海はそういう場所であり、
人間も生物の一つであるから、その身体機能を地球は包み込む。
そう理解して、ようやく実現すると、何かがゆるくはずれた気がした。
おもらしをしたときの気分に似ている。
「いいのか? いいのか?」
何かを自分のなかではずさないと、トイレではない場所で、服も脱がずに排泄することをよしと思えないのだ。

ダイビングなら海へ排泄物は流れていく。自然のものとして、大きな海にまぎれて、溶けていく。
介護されておむつをしている高齢者は、寝たきりで、
介護者がお手洗いまで行かれないからと安易におむつにすることがあるらしい。
トイレに連れていってもらえない人は、頭や心のなかで何かをはずし
て、ベッドのなかで排尿することになる。
その心持ちは、察するにしのびなかった。「いいのか? いいのか?」
というあの気持ち。
あれが日常化しているとしたら、どんなにきびしい気持ちになるだろう。

あるとき、ある医師の本のなかにあったことばにはっとした。
常時おむつをあてていることは、
自力で排泄できる人や少し手伝えばトイレまで歩けて排泄できる人に
尿意を忘れさせてしまう、というのだ。

「いいのか? いいのか?」を繰り返したあと、
おむつに守られて「これでいいんだ」となった人間の気持ち。
プライド、自分が社会で守って生きていくべきものが一つ消える瞬間。
尿意が消える。

人間は自然な身体の機能を失わせてしまうことができるのである。
健康な人なら当然の能力をなぜか剥いでいく介護。そのアイテムになりうるおむつ。

「おしめをする歳になったとき……」
「人間はおしめに始まり、おしめに終わる……」
おしめは当然来るものではない。とても深刻なことをはらんでいるアイテムなのだ。
意識の高い介護関係者は
「不必要なおむつは高齢者の尊厳を奪い取る」と考えているのに、
まだ介護と縁がない若い人のほうは、まるですすんでおむつをしようと
しているかのよう。
もっと知っていたらいいのに、と思う。

無意識のうちに、健康な若い年齢から排泄の自立をあきらめてしまうなんて。
年をとってもプライドをもって、プライバシーを守られて生きていい。
じつはもっと、最後までプライドをもって生きていいはずだ。
本にある医師の言葉で、そういう生き方がふつうだと、目が覚めた。


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